パートナーシップが、仕事と家庭のバランスを支えるということ

後編から続く、大澤さんの話
介護と育児が重なる「ダブルケア」の日々を送りながら、フリーランスとして働き続けている大澤奈保子さん。
前編ではそのライフヒストリーを、後編ではフリーランスとしての仕事の組み立て方を聞きました。
第三弾では、もうひとつの土台に迫ります。仕事と家庭のバランスを保ち続けられた背景にある、パートナーシップの話です。
※この記事は第三弾から読んでいただいても、大澤さんの状況と考え方が伝わるように構成しています。
「辞めてもいいんじゃない」という一言
大澤さんが会社を辞めるタイミングで、ご主人はこう言ったといいます。
「たーちゃん(大澤さんのニックネーム)の体が心配だから、休憩の意味でも辞めてもいいんじゃないかな」
フリーランスという働き方について、具体的なアドバイスはなかったといいます。ご主人自身、フリーランスの経験はありませんでした。
それでも、「デザイナーの仕事なら個人でもできる。ぜひやったほうがいい」という理解がありました。
やり方を一緒に考えるというより、まず背中を押してくれた。その姿勢が、大澤さんの一歩を支えました。
応援が、行動になっている
ご主人の応援は、言葉だけではありませんでした。
家事も育児も、積極的に担ってくれているといいます。現在の収入面では会社員であるご主人の方が大きい。それでも、大澤さんが地道に続けることに意味があると信じ、先を見ながら支えてくれています。
「地道にやってることが大事」という言葉を、ご主人自身が体現しているといいます。
役割分担は、自然と決まっていった

大澤さん夫婦の役割分担は、「夫が育児、私が介護」を主軸に動いています。
その背景には、大澤さんの正直な気持ちがありました。夫に義母、自分の母の直接的な介護を任せることへの、気遣いです。ケアする側にも、感情があります。「お願いしたいけれど、申し訳ない」という思いは、多くの人が感じることかもしれません。
同居当初の2〜3年は、母もまだ動けていたため、3人で家事を分担していました。母ができることは母に任せ、それ以外を夫婦で分け合う。固定した役割ではなく、状況に合わせて柔軟に変えていく。その姿勢が、長く続けられた理由のひとつでもあります。
話し合える関係は、どこから来るのか
パートナーとの家事・仕事の分担がうまくいかず、抱え込んでしまう。そういう悩みを持つフリーランスは少なくありません。
大澤さんに話し合いやすい関係性のコツを聞くと、こんな答えが返ってきました。
「私は彼としかパートナーをしたことがないので、自然とこうなってしまったんですが……もともと、一緒に考えようというスタンスの人でした」
意識的に作り上げたというより、もともとそういう関係性だったと大澤さんは言います。
ただ、そのご主人の背景には理由がありました。
ケアが「当たり前」だった家庭で育ったこと
ご主人は、主人は、代々続く農家の家系で育ちました。祖父母、両親、兄の家族。多いときには10人ほどが一つ屋根の下で暮らす、三世代同居の家庭です。
誰かが誰かをケアする状態が、ずっと日常にありました。おじいちゃんだったり、姪っ子だったり。助け合うことは、特別なことではなかった。
「ケアが当たり前の社会の中で育ってきた人だからこそ」と大澤さんは言います。
介護にも自然に向き合えるご主人がそばにいたことは、大澤さんにとって大きな支えでした。
一人で抱え込まないということ

仕事と家庭のバランスは、一人では保てません。
話し合える相手がいること。家事や育児を共に担ってくれる人がいること。そして、自分の働き方を信じて応援してくれる存在がいること。
それは、ケアを抱えるフリーランスにとって、仕事のスキルと同じくらい大切な「環境」かもしれません。
大澤さんは、外部のサービスも積極的に頼ってきました。保育園とファミリーサポート(ファミサポ)の活用、多忙な時期には就労理由での土曜保育。
ご主人は遠方のため日常的な手助けは難しいなかで、義両親とのテレビ電話を繋ぎ、画面越しに子どもと遊んでもらいながら家事を済ませるという工夫もしています。
頼れる人に、頼る。それも、一人で抱え込まないための大切な選択です。
大澤さんがケアをしながらも、フリーランスとして働き続けられているのは、仕事の工夫だけではありませんでした。人とのつながりが、家庭の土台も支えていました。
大澤さんから、フリーランスへ
フリーランスを立ち上げようとした頃の自分に向けて、と前置きした上で、大澤さんはこう話してくれました。
「うまくいかない時期も、諦めないで。少し踏ん張って、続けてみる。フリーランスの仕事は、営業をすれば必ず取れるものではありません。交流会に参加したとき、日々の誰かとの他愛のない会話、そういうところから、思わぬつながりが生まれることもある。「仕事、仕事」という視点を少し変えてみると、何かつながることもあるから。」
もう一つ、ケアを抱えるフリーランスに特に伝えたいこととして、こう続けました。
「自分の状況を、事前にクライアントに伝えておくこと。納期の短い仕事は受けられない、急に休むこともある。それを合意の上で仕事をいただく。隠すのではなく、最初に話しておくことが、長く続けるための土台になると思います。」
大澤さんの話から、物事を途中で投げ出さずにやり抜くこと、継続すること、そして、誠実に伝えることが重要だとわかります。
家庭も仕事も忙しいフリーランスが、早めに知っておきたいこと

大澤さんがフリーランス読者に特に伝えたいこととして、もう一つ実務的なヒントを教えてくれました。
「介護(ダブルケア)を理由に、ファミサポの利用料が減免される地域があります。また、保育園の土曜保育が利用できる場合もあります。」
制度は、知っている人だけが使えます。一人で調べるより、同じ状況にいる人とつながることが、最短の道になることもある。大澤さんの言葉は、そのことも静かに伝えていました。 大澤さんの言葉は、ケアを抱えながら働くすべてのフリーランスに向けられていました。
大澤さんのダブルケアの日々や活動は、各SNSでも発信中です。ぜひのぞいてみてください。
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